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最近読んだ本 その2(豊島遍路 番外編)

去年の夏は暑かった。その暑くて暑くてやりきれないある昼下がりに、
東村山市にある「国立ハンセン病資料館」に行ってきました。

いつも私が利用している西武池袋線の車両広告にちょうどその頃、
着物にみる療養所のくらし」展の案内があったからですが、
資料館の入り口に、お遍路姿の親子像があって、
「ああ、そうか…。」と思いました。

松本清張の『砂の器』を読んだ方なら、その昔、多くのハンセン病患者の方が、
四国でお遍路をして何とか生き延びてこられたという歴史をご存知かもしれませんが、
私は、『砂の器』は読んだことがなく、映画も予告編をちらっと見ただけだったので、
豊島遍路を回って「救らいの碑」という石碑を見ても、
ハンセン病とお遍路の関係が分からなかったのでした。
ですが資料館へ行こうと思ったことの一つに、
「救らいの碑」を見たことも、確かにあったように思います。

そして、ハンセン病資料館(冷房が効いていた!)に足を踏み入れたのですが……

明治時代から現在までの、ハンセン病のこと、国立療養所のことを
自分があまりにも知らなかったことに愕然としました。

その内容についてはとても多岐に亘ります。
特に明治時代、療養所が出来たときに、主に警察関係者が所長になり
「刑務所より一等級(だけ)上」の施設を作ろうとしたこと。
そのため、監禁や体罰、逃亡を防ぐためのおそろいの縞の着物、
軽度の患者はそれらの仕立物ほか生活周りのことは何でもやらされ、
また、重病者の看護もしたこと、
中で使う別の通貨があり、脱走しようとしても患者には
外で通用するお金がなかったこと、
夫婦で入居した場合は、数組が狭い相部屋であったこと、などなど、
劣悪な状況は、とても書きつくせるものではありません。
(もし機会がありましたら、ハンセン病資料館をぜひお訪ねください。)


最近になって、以下の本を読みました。

闇を光に―ハンセン病を生きて 近藤 宏一【著】 みすず書房
  昭和元年に生まれ、小学生のときにお母さんからうつってハンセン病に。
  小学生で、お母さんのご自分の病気平癒を祈願して、四国のお遍路を
  まわられたことを書いていらっしゃいます。
  薬の副作用で目が不自由になり、その後、ハーモニカバンドを結成。
  点字を舌先で読むという、文字通り「血が滲む」努力をされ、
  神谷美恵子が大きな示唆を受けたとされる方。
  最初、ウェブ上で本のタイトルを見つけ、その後、検索しようとして、
  なかなか見つからなかった本です。というのも
  「闇から光へ」と覚えてしまっていたからです。
  ですが、この方の人生、「闇から光へ」なんて生易しいものではない。
  まさに「闇を光に」という生涯だったと思いました。
  2009年に亡くなられました。ハンセン病の患者さんのほとんどがそうであったように
  近藤宏一さんというお名前も悲しいことにご本名ではないのだそうです。

門は開かれて―らい医の悲願 四十年の道 犀川 一夫【著】 みすず書房
  古本屋さんで見つけました。1988年発行の本です。
  ハンセン病治療に一生をささげた医師の自伝です。
  ハンセン病は、隔離しなくてもよい、という考えのもと、
  日本ばかりでなくインドその他、外国へも行かれました。
  ハンセン病の歴史を知ると、医者によって考え方が違い、
  それが大きな影響力を持ってハンセン病患者の方々を不必要に長く隔離することと
  なったことを知ります。

差別とハンセン病―「柊の垣根」は今も 畑谷 史代【著】 平凡社
  新聞記者が、ハンセン病の方に出会い、書かれた本(最初は新聞連載)。

  「柊(ヒイラギ)の垣根」とは、全生園の前にあったという、
  高さ3メートルもある垣根のことで、その垣根によって中と外は隔絶され、
  また容易に逃げられなくなっていたそうです。
  現在も、垣根は、うんと低くなって残されています。

  「柊の垣根」に象徴される「差別」、ですが、それを乗り越えてこられた方々によって、
  全生園には何十本、何百本の桜が植えられました。
  今ではたいへんな大木となって、私が行った夏は木陰をつくっていました。
  その桜を見るために、地元の方々も今はよく来られるそうです。
  今年の春は、私もぜひ再び行ってみたいと思っています。

  この本では、どうしてらい予防法の廃止が遅れたかについても
  書かれています。
  上記、医師の考えもそうですが、厚生省が「隔離しているから予算が下りる」
  「隔離しなければ予算はどうなる」というところで思考停止になり、
  旧来の法律のまま予算を通していたこと…。
  また、たとえばキリスト教徒、仏教徒が伝道のために入ってきたのだが、
  「宗教的慰安」つまり「諦めの境地」へと導こうとした、という厳しい指摘がありました。
  いわく、「人権侵害に覆いをした」、と。

わたしを離さないで カズオ・イシグロ 早川epi文庫
  資料館で知りました。病気の子どもたちが多かったので仮設の学校が作られ、
  最初は中の大人の患者が教え、のちには正規の教師が教えたのだそうです。
  子どもたちの作文も、展示されていたのですが、それらを読むときにふいに
  この本のことを思い出しました。
  「わたしを離さないで」は、ある特別な目的のための学校で育てられた
  若者たちを描いた近未来小説ですが、
  静かでありながら残酷な物語が、急にダブって見えたのでした。
  映画が上映されることもあり、新たな目でこの小説を再読したいと思っています。

  
桜並木を奥の方へ行くと、人影が動きました。
高齢の方が回復された今もお住まいになっていると聞きます。
そのまま道なりにぐるっとまわると、納骨堂がありました。

手を合わせていると大きな黒揚羽が、
重たそうな羽を動かしながら、
ゆっくりと私の目の前を横切っていきました。
by youyouhibiki | 2011-02-22 00:08 | 花遍路 豊島八十八箇所


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