『長崎の鐘』初版本

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『長崎の鐘』 永井 隆著、日比谷出版社、昭和24年1月30日発行
『この子を残して』 永井 隆著、大日本雄弁会講談社、昭和24年2月15日発行

初版本をわざわざ買う趣味はないのですが、
『長崎の鐘』だけは初版本を見たいと思っていました。
そしてある年の西武デパート古本市で見つけました。210円。カバーなしです。

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原爆投下とその直後の長崎の様子を、放射能に詳しい医師・永井博士が書いた本です。
しかし、原爆のことが書かれていたため、最初はGHQの出版許可が下りませんでした。
そして、昭和24年になってやっと、

  「マニラの悲劇 Japanese Atrocities in Manilla
   連合軍総司令部諜報課
   Military Intelligence Division Supreme Commander
   of The Altied Powers」

という、日本軍のマニラでの行為を書いた報告書(写真入り)を
後半三分の一に載せるという、「抱き合わせ」のかたちで出版されました。

その後、『長崎の鐘』はベストセラーになるのですが、
同時に、「アメリカと妥協した」とも非難されるようにもなり、
また、カトリック教徒・永井隆の
  「原子爆弾が浦上に落ちたのは大きな御摂理である。」
という言葉が、その後の政治運動の中で非難されることにも
なっていきました。

そのあたりのことは、こちらのサイトに詳しく書かれています。

こういう問題は、難しいです。ですが私は、
『神と科学は共存できるか』(グールド、日経BP社)を読んで、
得心するところがありました。
グールドは、科学と宗教が、重なりあわず独立して存在しているが、
そのうえで互いに尊重すべき知的体系という関係にある、とみなした上で、
そもそも科学と宗教を「対立構造」に見立てることそのものが間違いであり、
愚かしい、と主張します。 同書、日経BPサイトより(

この本(『神は~』は、たまたま組版をさせてもらったのがご縁で読ませていただいた
本ですが、私のものの考え方に大きな影響を与えました。


多くの著作を、白血病の身体をおして書き上げた永井博士はというと、
「印税で桜の木を植えてほしい」と遺言され、
今も春になると「永井千本桜」と呼ばれる桜が見事な花を
咲かせているのだそうです。
花に託された博士の願いが何であったのか、
きっと今も花が語ってくれていると思います。

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さて、話は変わります。
私には大叔母(父の従姉)があり、今も88歳くらいで健在。
カトリック修道院に若い頃入った「シスター」で、今は鎌倉の修道会に
身を寄せています。

去年、その大叔母をお見舞に行ったとき、たまたま『長崎の鐘』の話が出ました。

大叔母は、戦後まもなく、マニラの修道院に派遣されました。そして大叔母曰く、

  「ちょうど行く前に『長崎の鐘』が出て、その中にあった「マニラの悲劇」を
  読んでいたからよかったの。
  修道院だから、あちらのシスターたちも何もおっしゃらないんだけど、
  英語の先生(男性)は、明らかに日本刀で切られたみたいに左腕がないし、
  露骨ではないけれど日本人にはよそよそしくて、ああ、これはやっぱり
  「マニラの悲劇」みたいなことが…って、実際に思って…。
  だからあの本を読んでからマニラに行って、ほんとうによかった。
  そしてね、そうこうするうちに…。」

と言いながら、大叔母が手を振り上げたので、机の上の麦茶がこぼれ、
話は中断、そのまま別の話になってしまった。

おそらく、どういう経緯からは知らないけれど、マニラのシスター方と
大叔母の心の垣根は、次第に消えていったようでした。
それがどういう経過でなのか、そこを知りたいと思っているのですが、
目下のところ分かりません。


近いうちにまた、大叔母のお見舞に鎌倉に行こうと思うこの頃です。
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by youyouhibiki | 2011-08-08 08:13 | 本(下記以外) | Comments(2)
Commented by at 2011-08-13 10:24 x
初めてお便りします、ある日姉が一冊tの本をてに帰宅しました、「この子をのこして」永井博士のご本でした。姉妹でむさぼり読んだものです。だんだん原爆の様相が見えてきた時代です、「原爆の子」「夏の日」黒い雨と読み継ぐうちに世の中の不条理に目覚めていきました。
伊勢湾台風で貴重な本はすべてなくなりましたが、永井博士の枕もとのかわいいかやのちゃんの姿が眼裏に残っています。有難うございました。、
Commented by youyouhibiki at 2011-08-14 19:38
遊さま はじめまして。
永井博士の本が出た頃の貴重なお話、ありがとうございます。
多くの方が当時、さまざまな思いで読まれたのだと思います。

伊勢湾台風で大切な書物をなくされたこと、とても残念だったでしょうね。
でも、きっとお読みになったよい本の記憶はずっと消えずに
いらっしゃるのではないでしょうか? 
こちらこそ、コメントいただき、ありがとうございます。


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