須賀敦子の坂道

e0098256_21203326.jpg

「芸術新潮」10月号は「須賀敦子が愛したもの」という特集。

第1章は「坂道でたどる須賀敦子」。
シエナ、アッシジなどの坂道の写真と、須賀敦子さんの文章で構成された
素敵なページです。

  坂道を歩くと、人はなぜ哲学的になるのか?

よく分からないけれど、須賀敦子さんの文章と坂道は、
切っても切れない関係にあるようです。


そして、ここからが本題。
「芸術新潮」の37頁目に、須賀さんが慶応大学院在学中に
「カトリック学生連盟」の一員として活動しながら、
「神学への思いを深めていく」と書かれているのですが、
私は、須賀さんより時代はずっと遅く、70年代の
カトリック学生連盟(京都)に所属していました。

この団体は、戦後学生運動(=マルクス・レーニン主義)が盛んになる中、
信仰を持って生きるということはどういうことなのかを
真剣に考える学生たちの集まりでした。
須賀さんは、その活動の全盛期にこの団体(以下、学連)に
所属しておられたのです。

学連は、戦後、カトリックのみならず、宗教が弱体化していく中での信仰のあり方や、
形骸化しているカトリックを現代に蘇らせるにはどのようにすればいいのか、
という「あたらしい神学」を模索する集まりでした。
須賀さんは、「あたらしい神学」を日本で学んでから、フランス→イタリアへと留学。
そして、コルシア書店という、カトリック左派の拠点とも言うべき場所に
巡り会い、そこで活動しているイタリア人の友人と、わけても店主の
ペッピーノと出会い、やがて結婚されました。

須賀さんの本というと、
深い精神性と、それにふさわしい文体で書かれた
『ヴェネツィアの宿』『ユルスナールの靴』などが
まず思い浮かびます。
私が最初に読んだのも、そういった本でした。

でも、全集が文庫本になったのをきっかけに
第7巻の「どんぐりのたわごと」という、須賀さんが
ペッピーノと結婚する頃までに、日本の友人に宛ててイタリアから
発信されたミニコミ誌を読んで、須賀さんの「すごさ」を
改めて知ることができました。

「どんぐりのたわごと」は、1960年から61年にかけて全部で15冊出され、
そこで須賀さんは、ヨーロッパで書かれた神学論文の中でも、
日本人に読んでほしいと思われるものを、
コルシア書店の、とりわけペッピーノの意見を聴きながら選び、
翻訳し、手書き原稿を印刷して日本に発送しておられます。
また、詩も訳しておられます。
そしてそれらの論文と須賀さんの解説やコメントを読むと、
現代の、とりわけ日本で信仰を持つことについての考え方(の拠り所)を
深く考え、紹介しておられるその先見性に心打たれます。

例えば、「言葉」の問題。明治時代に翻訳された聖書の言葉や祈りが
現代の言葉としてそぐわなくなっていること。
西洋から伝来した宗教を持ちながら日本古来の信仰を尊ぶことについて。
労働について、多くの宗教と(あるいは宗教を持たない人と)
共存することについて。。。
教会のあり方についても、信徒のあり方についても言及されています。

その後、「あたらしい神学」はカトリック教会の第二バチカン公会議
(1962年~1965年)に多いに反映され、カトリック教会はずいぶん変わりました。
たとえば、ミサはラテン語から各国の言葉になったし、
中世以来変わらない服装だったシスターたちも、活動的な服装になりました。
なかには、ふつうの会社で働きながら修道生活を送る修道者も出てきました。
外観だけではなく、内面的にももちろん変わりました。

でも、須賀さんの「どんぐりのたわごと」は
この第二バチカン公会議直前までで(公会議がはじまったことで
それを成果と見ることもできたと思われる)、ペッピーノと結婚したこともあって
終刊となります。
その後、ペッピーノが亡くなり、帰国されて大学で教えられ、
そしてその著書が多くの人に読まれたのは、周知のことです。

須賀さんが「どんぐりのたわごと」や、全集第8巻の初期論文で書いておられるのは、
恐らく、愛を持って日々を新たに生きるということだと思います。
須賀さんの文章を読んでいると、その思いへの希求の激しさに
胸打たれます。
その一途で真摯な生き方が、今も
多くの読者の心をつかんでいるのではないかと思います。

「生きることが、大切なのだと思う。生きるとは、毎日のすべての瞬間を、
愛しつくしてゆくことである。それは『現世』に目をつぶって、この世を
素通りしてゆくことではない。愛するとは、人生のいとなみを通じて、
神の創造の仕事に参加することなのである。」

「キリスト教徒の召命を生きるということはすなわち、
神の御言葉を、すなわち、愛を、どのような逆境にあっても、
もちろん、どんな楽しい時にでも、本気で信じているものとして
生きることなのである。それは、だから、日常のあらゆる瞬間を、
心をこめて生きることにほかならない。」
                       (第8巻 エッセイ)

[PR]
by youyouhibiki | 2008-10-07 21:24 | 思う・考える | Comments(2)
Commented by sela at 2008-10-09 00:16 x
おお、9月号のフェルメール特集に続き10月号も買わねばかしらん....10日によろしければお見せください♪
Commented by youyouhibiki at 2008-10-09 08:06
は~い、selaさん、了解です♪
いよいよ明日ですね。


本のこと、詩歌のこと、美術展のこと、and so on...


by youyouhibiki

プロフィールを見る
画像一覧

S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30

about me

カテゴリ

全体
美術
詩歌(下記以外)
 連句・歌仙
本(下記以外)
 装幀・デザイン
 アルスのノートと本
 平安~鎌倉の文学
 芥川/片山廣子
 ポール・クローデル
 ウィンター/ディキンソン
音楽・演劇・映画
旅・散歩(下記以外)
 練馬/東京散歩
 鎌倉散策
 花遍路 豊島八十八箇所
写真
仕事
思う・考える
コルベ神父
つくる
衣食住
Dogs & Cats, etc.
子ども時代
未分類

検索

以前の記事

2017年 10月
2017年 09月
2017年 07月
2017年 06月
2015年 07月
2015年 01月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
more...

記事ランキング

最新のコメント

コメントありがとうござい..
by youyouhibiki at 23:51
コメントありがとうござい..
by youyouhibiki at 22:54
古書通さま お知らせあ..
by youyouhibiki at 14:08
昨日、小町通に行きました..
by 古書通 at 08:31
dizire_san ..
by youyouhibiki at 00:04

画像一覧