夏ちゃん
8月に本郷菊坂の樋口一葉ゆかりの井戸を見てから、
少し樋口一葉(本名奈津、和歌では夏子と名告る)について知りたくなりました。
以前、新聞に一葉のことが詳しく連載され
そのときに「すごい人だったんだ…」と思ったものの
すっかり細かいことを忘れていたのです。
まず、小説なのですが、これはちょっとギブアップ!
最近は翻訳も出ているようですが、パラパラと読んでみたらたまらなくおかしかった。
やっぱり一葉は原作が一番ですが、数年前になんとか『たけくらべ』を読んだものの、
かなりしんどかったので、今回はすべてをパス。
そこで安直な道を探して田中優子著「樋口一葉『いやだ!』と云ふ」(集英社新書)を
読みました。この本は、タイトル通り、
一葉も小説の登場人物も、みんながんじがらめの人生の中で「いやだ!」
と言っている、ということを作品をからめて紹介している。
その後、井上ひさしの『頭痛肩こり樋口一葉』を読みました。
一葉は当時、戸主だったので、母と妹を養わなくてはならない、しかも養子をとらないと
家が断絶してしまう…など、一家を背負って生きていきます。
井上氏は登場人物にこのように言わせています:
「わたしは生きていた自分から心をこっち側へ、死の世界へ移していましたから…(略)」
また、井上氏は一葉の作品について、一葉の口からこのように言わせています。
(花蛍という花魁の幽霊が、因果の糸が張りめぐらされて、悲恋になったという言葉のあと)
夏子「(静かに、しかし強く)でもわたし小説でその因果の糸の網に
戦さを仕掛けてやったような気がする。」
そのあと読んだのが『樋口一葉日記(完全現代語訳)』(高橋和彦訳・アドレエー)。
で、これがとっても面白い。人さまの日記はいつも面白いものだけど:P
ほんとに面白くてかなり一気読みしてしまいました。
まず、小説の指南役・半井桃水(なからいとうすい)への思慕が綴られていることと、
小説を書いて一躍、有名になると、一葉のところに多くの人が足しげく通うようになります。
(戸川秋骨、上田敏、島崎藤村、 斎藤緑雨、泉鏡花、幸田露伴、などなど…。)
彼らは夜遅くまで一葉のところでおおいに語り、そこは場所が違えばフランスのサロン、
一葉はサロンの女あるじのようでもありますが、自分を冷静に見据えてこのように
書き記します:
ようやく世間に名前を知られて来て、珍しげにうるさい程もてはやされる。
嬉しいことだといってよかろうか。これもただ目の前の煙のようなもので、
私自身は昨日の私と何の違いがあろう。小説を書き、文章を作る……これはただ
7歳の頃から思い続けてきたことの、ほんの片端を書いただけです。
どうしてこんなに大げさに言いはやすのだろう。
今の私が俄にこんな名声を得たように、やがて秋風が吹き出すと、
野末に捨てられて誰も見返る人もないでしょう。
そんな運命を思うと、ますます心細いことです。
日記は一葉の死の2ヶ月前に書きかけのまま終わり、その後、
一葉が筆をとることはできませんでした。
日記は死後消却するようにとの遺言でしたが、
妹の邦が保存していたので無事だったそうで、
その後の研究につながっています。(エミリー・ディキンスンの場合は、
妹が律儀に日記を全部焼いてしまった!)
その後、『一葉に逢いたくて』(解説 森まゆみ)を読むと、
一葉の小説(抜粋)が、大きな活字(14Pくらい)で組まれています。
森まゆみ氏が言うとおり一葉の文章はリズムがいいので、
それらの抜粋を読んでみました。
一葉の文体を「雅俗折衷」と言うのだそうです。
地の文は文語、語りは口語、なので口語の江戸っ子のもの言いが
ものすごく効いてくるみたい。
今度ちゃんと読んでみよう…。
by youyouhibiki
| 2009-10-24 23:35
| 酉の市/樋口一葉
本のこと、詩歌のこと、美術展のこと、and so on...
by youyouhibiki
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