『旋頭歌の興趣』(大岡信)より
先日の日記(芥川龍之介の旋頭歌『越びと』)に関連して、
『私の古典詩選』(大岡信 岩波書店同時代ライブラリー)に
『旋頭歌の興趣~詩形の生命と運命について』という一文があったので、
メモしておこうと思う。
*
万葉集では、柿本人麻呂の旋頭歌などが収録されているが、
60首あまりであり、万葉初期、中期でほとんど顧みられなくなった。
大岡氏はそれを「地球上のはげしい生存競争に敗れて姿を消していった
古代の生物たちの運命をふと連想させる」と書いている。
五七七 五七七 で息継ぎをするしかない旋頭歌は
さまざまに切ることのできる短歌に対して分が悪かった。
そのために滅んでしまった形式である旋頭歌だが、
窪田空穂が大正2年ころに再び試みている。
「(旋頭歌には)……短歌に較べると、言葉の調子に於いて、暢びやかな、
たゆたつた、丁度ふるへながらも長く引いた線を見るやうな美しさががある。
兎に角短歌にはなくて旋頭歌にのみある特色がある。
そして其の物として叙情的なにほひがある。
それに又、五七七といふ調子は、その尻の重い、浮つかない点に於いて
妙に口語と呼吸の合ふところがあるやうに私には思へる。」(窪田空穂)
そして「近代における旋頭歌で興味ぶかいもう一つの試み」として、
大岡氏は「越びと」を揚げている。
「芥川の詩・歌・俳句を通じて最高のものかもしれない。」(大岡信)。
※旋頭歌の特長や美しい調べについては、『私の古典詩選』に詳しい。
下記は挙げられている旋頭歌の一部。
*
夏影の房(つまや)の下に衣(きぬ)裁つ吾妹
うら設(ま)けて吾がため裁たばやや大(おほ)に裁て
住吉の出見のハマの柴な刈りそね
未通女等(をとめら)が赤裳の裾の濡れてゆく見む
梓弓引津辺にある莫告藻(なのりそ)の花
採むまでに逢っはざらめやも莫告藻の花
(莫告藻とはホンダワラのこと)
君がため手力(たぢから)疲れ織りたる衣(きぬ)ぞ
春さらばいかなる色に摺りてば好(よ)けむ
(以上、柿本人麻呂)
青みづら依綱(よさみ)の原に人も逢はぬかも
石走る淡海県(あふみあがた)の物語せむ (読み人知らず 万葉集)
沈黙の心の海にうかまんとしてうかみあへずたゆたひてあり一つの言葉
沈黙の底のま青き水をすきては白き魚尾鰭ふりつつ遊べるが見ゆ
朧夜よこのうつくしき朧に眼ざめわが知らぬあまたの命息づきかはす
朧夜の地にもつれあふやはらかき影、忍びつつ踏みゆく足に靡きまつはる
まぼろしに君はあれかもあはれわが君いだけどもいだけどもはた捉へ難なく
何故と問はるるままに答さがしぬ、その答あらずなり来てあやしくも楽し
あやまちて海におとしし球にいかも似て、美しき幻となる君が瞳は
曙の露に濡れたる桜草かも、あやまちて海に落としし青き球かも
うつくしき君をし見ればいとも怪しく消ゆらんとしつつあるなる命とも見ゆ
(以上、窪田空穂)
※芥川龍之介の旋頭歌は前の日記にあります。
by youyouhibiki
| 2007-12-23 23:39
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