前登志夫『森の時間』
前回の『吉野日記』に引き続き、前登志夫の『森の時間』を読みました。
吉野という場所を、私は桜の名所ということでしか知りませんでしたが、
古事記、万葉集にも登場し、
また南北朝時代に南朝の朝廷が置かれたこと、
修験道が栄えたことなど、古代からの歴史を
連綿と伝えている場所だということを、今回知りました。
『森の時間』には、「魑魂(すだま)」「空洞(ほら、まほら)」「響(とよ)み」
「斉庭(ゆにわ)」など、上代からある言葉が使われていたり、
古事記や万葉集が引用されているかと思うと、
夫と子どもを置いて村をとつぜん出てしまった若妻や、
村ではどちらかというと軽んじられていた男のところに
とても美しいお嫁さんが来る最近の村の話など、
昔の話なのだか現代の話なのだか分からなくなるような
いろいろな話が語られています。
そして、それらのエピソードはどれももの悲しく、
人はいつの時代に生まれても、螢のような発光体となって
光を放っているようにも見えてきます。
前登志夫は、歌人なので、ずっと吉野に棲んで、
それ以外の土地ではもう存在しなくなった悲しみ(日本古来からの)
を言葉にし続けていたように思いました。
かなしみは明るさゆゑにきたりけり一本の樹の翳らひにけり
暗道(くらみち)のわれの歩みにまつはれる螢ありわれはいかなる河か
わが歌は輝ける他者やまももの実を食うべゐる家族(うから)も死者も
崖の上にほんのしばらく繭のごと棲まはせてもらふと四方(よも)を拝めり
ぶらさがるあけびの熟れ実食(は)みをれば八百万神咲(え)らぐしづけさ
ことしまた梟啼きぬわたくしの生まれるまへの若葉の闇に
青空のふかき一日ことばみな忘れてしまひ青草を刈る
by youyouhibiki
| 2008-08-04 22:26
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