丸谷才一『後鳥羽院』その1

私が高校の頃(昭和45年以前)、古典の先生にこのように言われたのが
忘れられない。
「和歌は古今集までです。新古今なんて、読むだけ無駄です。
ほとんどが本歌どりで、技巧に走っているだけですから。」と。

ところがこのたび、『平家物語』や『定家明月記私抄』にからんで、
後鳥羽院のことが知りたくなり、図書館から丸谷才一の
『後鳥羽院』(日本詩人選10 筑摩書房 昭和48年刊)を借りてきた。
そして、これがめちゃくちゃ面白い。
どんな風に面白いかというと、読むのに夢中になりすぎて、
電車を降りそこなったくらい。。。なのだけど、それはさておき。。。

この本は、丸谷才一が國學院大學で英文学を教えつつ
ジェームス・ジョイスの『フィネガンス・ウェイク』の読書会を
大学の先生としながら読んでいた、そのときに、
新古今集もジョイスの読み方で読むことを思い立ったのちに
書かれたものだ。

『フィネガンス・ウェイク』、wikipediaによると

英語による小説ではあるが、
各所に世界中のあらゆる言語(日本語を含む)が散りばめられ、
「ジョイス語」と言われる独特の言語表現がみられる。
また英語表現だけをとっても、意識の流れの手法が極限にまで推し進められ、
言葉遊び、二重含意など既存文法を逸脱する表現も多い。

『若き芸術家の肖像』以来の神話的世界と現代を二重化する
重層的な物語構成と相俟って、ジョイスの文学的達成の極と評価される。
という小説であるらしい。

そこで後鳥羽院の歌をどのように読んでいくか、であるが、

いかにせん思ひありその忘貝かいもなぎさに波よするそで
A:
  あの人に思いこがれながら長い年月を経たのにその甲斐もなく……
B:
  その恋ごころの辛さから解放されようとして長い間渚に恋忘れ貝を探し求めたのに
  それもむなしくて

という裏表を持つ、「こみいった仕掛けの織物となる」。

さらにまた、

あはれなり世をうみ渡る浦人のほのかにともすおきのかがり火
については
「あ」「う」「お」の母音を「この上なく効果的に捉えた秀歌」である上、
「あはれ」には「哀れ」と「阿波」
「よ」には「夜」と「世」
「うみ」には「倦み」と「海」
「わたる」には「渡る」と「海(わた)」
「うらひと」には「浦人」と「占人」「心(うら)」
「ほのか」は「仄か」でありながら「帆」を示し、「焔」を暗示
「ともす」は「灯す」「伴」「艫(とも)」
「おき」は「沖」「起き」「熾」、母音をずらせて「秋」「浮き」「憂き」「息」「生き」「壱岐」
などの複合体として大意をとらえる必要がある、としている。
「折口信夫は『新古今』の歌の散文訳を評して、鶏に羽根をむしったようになると
嘲ったそうである。」としつつも、上の歌の大意を取るとこのようになるらしい。

……哀れなイメージだ、まるで阿波の国のように人の世に倦み果てながら
夜の海を渡るうらさびしい漁師が占いの者さながらに仄かな焔を、
帆と同じみずからの伴侶として船尾に灯すとき、よもすがら起きつづけ
生きつづけ浮きつづけ燠火のように息しつづけながら、
遙かに壱岐を望む隠岐の国の沖の秋の海にもの憂く燃える篝火は。

「あはれ」から「おき」までは執拗に多層的な意味を狙って
雰囲気を濃密にもりあげ、一転して結句の「かかりひ」では
単一の意味によって明確にしぼるあたり、恐ろしいほどの
技巧と感嘆するほかない。(P272)

丸谷才一に言わせると、同時代の源実朝と後鳥羽院は、
生き方も歌も対局にあると言う。
片や宮廷にありながら武術に長けており
片や武士でありながら宮廷に憧れていた。
そして、明治以降の文学の傾向は実朝に軍配があがっていた。

……彼らは批評家としての定家を否定し、批評家としての正岡子規を
よしとしているものらしい。言うまでもなく、定家にとって畏れるに足る
当代歌人はただ後鳥羽院と式子内親王とそれにせいぜい藤原良経だけ
であったろうし、子規にとっての理想の歌人は実朝であった。(P260)


(この項、つづく)
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by youyouhibiki | 2008-08-13 22:47 |  平安~鎌倉の文学 | Comments(0)


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